
「良好胚を移植したのに、妊娠判定は陰性だった」
「何度移植しても着床せず、このまま同じ治療を続けてよいのか分からない」
体外受精では、胚の発育段階や形態を確認し、妊娠につながる可能性が高いと考えられる胚を選んで移植します。それでも、良好と評価された胚を移植すれば、必ず妊娠できるわけではありません。
着床には、胚そのものの状態だけでなく、子宮内の形態や子宮内膜の状態、炎症、細菌環境、胚を戻すタイミングなど、複数の要素が関係しているためです。
松本レディースIVFクリニックでは、良好胚が得られているにもかかわらず妊娠に至らない方や、着床する力について詳しく調べたい方を対象に「着床外来」を設けています。
今回は、胚移植をしても着床しない場合に考えられる原因と、当院の着床外来で調べることについて解説します。
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目次
着床には、胚と子宮内膜の両方の条件が関係します
着床とは、受精卵である胚が子宮内膜に接着し、その中へ入り込んで妊娠が成立していく一連の過程です。
胚移植では、子宮内に胚を戻した時点で妊娠が成立するわけではありません。移植された胚が子宮内膜にたどり着き、内膜と相互に作用しながら着床する必要があります。
体外受精で「良好胚」と評価されるのは、主に胚の形態や発育状況が良好であるという意味です。染色体の状態や、その後も発育を続けられるかどうかまでを、外見だけで正確に判断することはできません。
一方、子宮側にも胚を受け入れるための条件があります。
子宮内に着床を妨げる病変がないこと、子宮内膜が整っていること、ホルモンの状態や移植時期が適切であることなどが必要です。
そのため、良好胚を移植しても着床しなかった場合に、「胚が悪かった」「子宮に問題がある」と単純に原因を決めることはできません。胚側と子宮側の両方を含め、これまでの治療経過を振り返ることが大切です。
なお、一度の移植不成功だけで「着床不全」と判断するわけではありません。年齢、移植した胚の数や発育段階、これまでの治療歴によって、詳しい検査を検討する時期は異なります。
良好胚を移植しても着床しないときに考えられること
子宮側の要因としてまず確認したいのが、子宮内の形態です。
子宮内膜ポリープや子宮筋腫、子宮内の癒着などがあると、その位置や大きさによっては胚の着床に影響する可能性があります。
子宮内膜の炎症も、確認すべき要素の一つです。慢性子宮内膜炎は、子宮内膜に炎症が続いている状態ですが、目立った痛みや不正出血などがなく、自覚症状だけでは分からないことがあります。
また、子宮内にはさまざまな細菌が存在しています。その細菌の構成に偏りがある場合、子宮内膜の環境に影響する可能性が指摘されています。
さらに、子宮内膜には、胚を受け入れやすい限られた時期があると考えられています。これが「着床の窓(着床ウィンドウ)」です。子宮内膜が整っているように見えても、胚移植の時期と着床の窓が合っていない可能性があります。
着床しない原因は、一つとは限りません。複数の要素が重なっている場合もあれば、詳しく調べても明確な原因を特定できない場合もあります。
だからこそ、検査結果だけを見るのではなく、これまでの採卵・培養・胚移植の経過と合わせて考える必要があります。
着床外来では、着床を妨げる要因を多角的に調べます
当院の着床外来では、患者さまの状態や治療歴に応じて、以下のような検査を検討します。
子宮鏡検査
細い内視鏡を用いて子宮内を直接観察する検査です。
超音波検査だけでは分かりにくい子宮内膜ポリープ、子宮筋腫、子宮内の癒着などを確認します。子宮内膜の見え方から、炎症を疑う所見がないかを観察することもあります。
子宮内膜組織検査(CD138染色)
子宮内膜の組織を採取し、CD138という細胞マーカーが陽性となる細胞の有無を確認する検査です。
慢性子宮内膜炎が疑われる場合に、子宮内膜の炎症を病理学的に評価します。
腟培養検査
腟内から検体を採取し、感染や炎症に関係する細菌が存在していないかを確認します。
細菌が検出された場合には、必要に応じて治療を検討します。
子宮内フローラ検査
子宮内にどのような細菌が、どの程度の割合で存在しているかを調べる検査です。
着床との関係が研究されているラクトバチルス属の割合などを解析し、子宮内の細菌環境を評価します。
ただし、ラクトバチルスの割合だけで妊娠の可否が決まるわけではありません。検査結果だけを見て、着床しなかった原因を断定することもできません。
ERA
子宮内膜の組織を採取し、遺伝子の発現状態を解析することで、子宮内膜が胚を受け入れやすい状態にあるかを調べます。
検査の結果、着床の窓にずれがある可能性が示された場合には、黄体ホルモンの投与時間や、次回の胚移植を行う時期の調整を検討します。
シネMRI
子宮の動きを観察する検査です。
子宮筋腫や子宮腺筋症などがある方について、手術を含めた治療方針を検討する際に行うことがあります。
これらの検査を、すべての方に一律で行うわけではありません。これまでの検査結果や治療歴を確認し、次の治療方針につながると考えられる検査を選択します。
検査結果を、次の胚移植にどう生かすかが重要です
着床外来の目的は、単に異常を見つけることではありません。検査によって得られた情報を、次の胚移植へつなげることが重要です。
子宮鏡検査で、着床に影響する可能性のある子宮内膜ポリープや子宮筋腫などが見つかった場合には、位置や大きさを確認し、治療の必要性を検討します。
子宮内膜の炎症や感染が疑われた場合には、その結果に応じた対応を行います。子宮内フローラ検査で細菌環境の偏りが認められた場合も、検出された細菌の種類や割合、これまでの治療経過などを踏まえて、子宮内環境を整える方法を検討します。
ERAで着床の窓にずれがある可能性が示された場合には、黄体ホルモンの投与時間や移植時期を調整します。
ただし、検査で何らかの結果が示されても、それだけで着床しなかった原因が確定するとは限りません。また、検査や治療を行えば、次の移植で必ず妊娠できるというものでもありません。
胚の状態、子宮内膜の厚さ、ホルモン剤の使用方法、これまでの移植結果なども含めて、総合的に次の方針を考えます。
すべての検査を受けることが、治療の近道とは限りません
良好胚を移植しても妊娠に至らないと、「まだ受けていない検査に原因があるのではないか」と考え、できるだけ多くの検査を受けたくなるかもしれません。
しかし、検査には費用や身体的な負担がかかります。
子宮内膜の組織を採取する検査では、痛みや出血、感染、気分不良などが生じる可能性があります。検査内容によっては、その周期に胚移植を行えないこともあります。
当院の着床外来では、まず過去の治療経過を振り返ります。
採卵できた卵子の数、受精方法、胚盤胞への到達状況、移植した胚の発育段階やグレード、子宮内膜の厚さ、ホルモン剤の使用方法、移植時の状況などを整理し、どの部分を確認すれば次の方針が変わるのかを考えます。
なお、着床外来で行う検査は、それぞれ診療上の位置づけや費用の扱いが異なります。
当院では、子宮鏡検査、子宮内膜組織検査(CD138染色)、腟培養検査、子宮内フローラ検査、シネMRIを自費診療として行っています。
ERAは、所定の条件を満たす場合には先進医療として、保険診療による体外受精・胚移植と併用できます。ただし、ERAの検査費用自体に保険が適用されるわけではなく、全額自己負担です。
検査の適応や実施する周期、費用は患者さまの治療状況によって異なるため、受診時にご確認ください。
また、当院では現在、他院で不妊治療を受けている方による着床検査のみの受診は行っておりません。当院での治療を検討されている方は、これまでの採卵・培養・胚移植の記録をご用意のうえ、ご相談ください。
着床しない理由を整理し、次の移植につなげるために
良好胚を移植しても妊娠に至らない場合、胚の状態だけでなく、子宮内の形態や炎症、細菌環境、子宮内膜の状態、移植のタイミングなど、複数の要素を確認する必要があります。
松本レディースIVFクリニックの着床外来では、これまでの採卵・培養・胚移植の結果を振り返ったうえで、子宮鏡検査、子宮内膜組織検査、腟培養検査、子宮内フローラ検査、ERAなどから、患者さまに必要な検査を検討します。対象となる方には、シネMRIを行うこともあります。
ただし、すべての検査を一度に受ければ、着床しない原因が必ず分かるわけではありません。
大切なのは、これまでの治療で何が分かっていて、何がまだ分かっていないのかを整理すること。そして、検査で得られた結果を、次の胚移植で「何を変えるか」につなげることです。
良好胚を繰り返し移植しても妊娠に至らず、このまま同じ治療を続けてよいのか迷われている方は、当院の着床外来へご相談ください。